【吉田類 大衆酒場100選】  花園神社の参道脇に酒の神が舞い降りた  川太郎(新宿三丁目)

【吉田類 大衆酒場100選】
花園神社の参道脇に酒の神が舞い降りた

日刊ゲンダイ2014年3月20日 掲載

http://gendai.net/articles/view/syoku/148840


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(C)日刊ゲンダイ

■川太郎(新宿三丁目)

 どんな酒場だろうと、初めて暖簾をくぐる時は多少なりとも緊張する。それが神社の参道脇の暗がりにあるのだから、なおさらだ。

 新宿は花園神社の一の鳥居を抜け、赤い二の鳥居をくぐって右手に折れると、宵闇に「田舎料理」と書かれた白い看板が浮かぶ。表通りの喧騒が嘘のように遠ざかり、どこか謎めいた雰囲気である。

 意を決して引き戸を開けると、L字カウンターだけの店内に、男性がひとり。「いらっしゃい」の声に迎えられ、客のいない止まり木についた。まずはビール(中瓶)600円をグビリ。静寂に耳を傾けていると、「ママはまだなんだよ、ごめんね」と男性が言った。店主でも店員でもなく、常連サンだったのだ。

 ここは熊本出身のママ、大塚美子さんが切り盛りする酒場である。昭和45年(1970年)の創業から44年、女手ひとつで看板を守ってきたとあって、腰を悪くしてしまい、手術を受けたばかりなのだという。現在はリハビリ期間のため、ママが店に出る夜8時ごろまで、常連サンが支度をし、店番をしていたのである。

 突き出しのアナゴとキュウリの和え物600円を箸でつつきながら、そんな話を聞いていると、ママがやってきた。
「ビールは冷蔵庫に入れておいたからね」「いつも悪いね」といったやりとりの後、「こちら初めての方」と常連サンがこちらに手のひらを向け、紹介してくれた。軽く会釈をすれば、ニッコリとママがほほ笑む。たったそれだけのことなのに、心のこわばりはほぐれていた。

 では、改めて乾杯といこう。酒を熊本の米焼酎、白岳700円のお湯割りに差し替え、馬刺しを注文。1800円と値は張るが、「熊本から空輸しているからうまいよ」と常連サンのおすすめとなれば、試さない手はない。ニンニクを醤油に溶かし、タマネギのスライスをのせて口に入れると、赤身の肉のうま味が広がり、まったりとした脂のコクが後を追っていく。焼酎をあおれば、至福の協奏曲が脳内で始まった。ただただ「うまい!」とうなれば、ママがポツリ。
「本当は『のっぺ』もあったらいいんだけどね」

 のっぺとは、けんちん汁のような熊本の郷土料理で、店の定番メニューである。ただ、仕込みに手間がかかるため、今は残念ながら、用意できないのだとか。そんなこと、大したことじゃないんだと常連サンが言う。
「ここはこの空間と馬刺し、そしてママがいればいいの!」

 ママがまたほほ笑む。その笑顔には、確かに心を温める力がある。酒の神様がいるようだ。
「のっぺはまた腰がよくなったらやればいいじゃない」

 そうです! またお店に来る楽しみがひとつ増えました!
(取材・カメラ 吉田慎治)

■常連になっちゃおう!

▽吉田類…「ここは流しの客がフラリと立ち寄れる店ではありません。ロケーションといい、常連客がほとんど。その輪にいかに溶け込んでいけるかが、この店を楽しむ重要なポイントなのです。ですが、そこをクリアすれば、実に居心地の良い酒場となります。僕もあの『のっぺ』をもう一度味わいたいですね」

▼よしだ・るい 高知県出身。画家、イラストレーターの傍ら、酒場詩人として全国の酒場をめぐる。著書に「酒場歳時記」など。BS―TBS「吉田類の酒場放浪記」出演中。





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