東京新聞2012年12月6日 山楽のススメ…<準備から下山まで> より深く自然と親しむ

【山楽のススメ】
<準備から下山まで> より深く自然と親しむ
東京新聞2012年12月6日



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高波菊男さんは吾策新道をつくった高波吾策さんの息子でもある


 山小屋に泊まり、主人と話をするのは楽しいひとときだ。例えば、蓬(よもぎ)ヒュッテ(谷川連峰)の高波菊男さん(1948~)。彼は苗場山の遊仙閣などで小屋番をして40年以上も山で生きてきた。小屋番になりたてのころは苦労したそうだが、「背伸びをせずに自分の個性を出せばいい」と思うと楽になったという。

 すると、客が増えただけでなく、それまで彼が歩くと、逃げていた野鳥が足元で餌をついばむようになった。ある日、登山道でカモシカにばったり遭った。右は斜面、左は崖。どうしようかと考えていると、カモシカは斜面を登り始めた。上に行くのかと見ていると、すぐに下りてきて高波さんの背後にまわった。そして何事もなかったように登山道を進んで行った。

 さらにある日、荷物運びで疲れ、岩に腰かけていると、草叢(くさむら)から音がし、ウサギが飛び出してきた。ウサギは逃げずに高波さんの太ももに上がった。くすぐったくて吹き出したくなったが、じっとしていた。ウサギは辺りを見回すと、腕の下を通って反対側の草叢に消えた。

 その話を聞いて、野鳥もウサギもカモシカも彼を山の仲間と認めていたからではないか、山にいることは自然と一体化することなのだと感じた。それに比べ、山を歩きながら「頂上はまだか」とか「これで何座目だ」とか雑念の塊のような私はまだまだ修行が足りないと思ったものだ。

      ◇

 ◆メモ 蓬ヒュッテは谷川岳の北方、蓬峠(標高1529メートル)付近にある山小屋。6月から10月にかけては有人だが、冬季は閉鎖となる。

 (日本大学講師・ライター、工藤隆雄)

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