銀の鈴どこ? 迷宮東京駅、案内アプリですいすい  JR東日本が実証実験

銀の鈴どこ? 迷宮東京駅、案内アプリですいすい
JR東日本が実証実験

日本経済新聞2014/12/20 7:00

http://www.nikkei.com/article/DGXMZO81101730Z11C14A2000000/?dg=1p

 20日で開業100周年を迎える東京駅は1日約80万人が利用する日本有数の巨大ターミナルだ。駅構内に次々と魅力ある商業施設がオープン、買い物などに便利になった半面、駅の構造が複雑になり、迷う人も多い。そんな不安やイライラを解消しようと東日本旅客鉄道(JR東日本)はスマートフォン(スマホ)アプリで道案内する新サービスの実証実験を18日から始めた。果たして快適に利用できるのか、記者がいち早く体験した。


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スマホアプリ「東京駅構内ナビ」は18日にサービスを始めた

■駅ナカ店舗増え「迷宮」に

 「テレビ番組で取り上げられた○○店はどこですか」

 「成田エクスプレスの乗り場はどうやって行けばいいですか」

 通勤客から旅行客、出張中の会社員まで様々な客層でごった返す東京駅。商業施設が次々とできているせいか、乗客から駅員への問い合わせが年々増加しているという。構内に5カ所の案内所を設け、12人の専任スタッフを配置しているが、混雑時には問い合わせる人が行列を作ることも珍しくない。

 東京駅が大きく変わり始めたのは2000年以降。07年、地下1階に飲食店や土産物店が軒を連ねる「グランスタ」を開業した。11年には京葉線のホームまでの通路を利用して「京葉ストリート」がオープンした。現在は駅構内に100店舗以上がひしめき、一般のショッピングモールと肩を並べる商業施設に成長した。

 そこで作ったのが、スマホ向けアプリ「東京駅構内ナビ」だ。対象となるのは駅構内(改札内)を中心とするJR東日本が管轄するエリア。12月中旬、関係者の立ち会いのもと、八重洲中央口から改札内にある飲食店街「グランスタダイニング」まで歩き、実力を試した。


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「東京駅構内ナビ」の画面。地図の下に案内を表示する

 アプリを立ち上げると、スマホ画面の駅構内の地図上に青色の印が表示される。これが現在地だ。

 地図の下には駅構内にある出口や改札名、商業施設名の一覧が約60カ所表示される。これを左右に指を滑らせて目的地を選ぶ。するとすぐ地図上にルートが表示される。ここまではカーナビゲーションシステムやほかの地図アプリなどと大差はない。スマホを見ながら目的地に向けて進もうと歩き始めた。

■歩きスマホ防ぐ工夫

 「『歩きスマホ』はダメですよ」

 JR東日本研究開発センターの林寛子研究員が即座に記者を注意した。確かに最近スマホ画面を見ながら歩き、他人とぶつかったり、線路に転落したりする事故が増えている。しかしスマホで道案内することをうたっているのに、どうやって進めばいいというのか。

 「一度地図の下にある指示を見て、その通りに進めば、いちいち画面を見なくても歩けますよ」

 なるほど、地図の下には「スタート」と表示されている。さらに矢印で「23m」とあり、その矢印の先には「右方向へ進む」との指示が。これは「ここから直進方向に23メートル進み、その後右に曲がる」という意味。でも23メートル先と言われても、よほど距離感覚が優れていなければ分からない。

 「そんな心配はいりません。目印になる看板も表示していますよ」

 指示の上部に表示される案内看板のイラスト。これと同じ実物の看板が目印になるというのだ。指示通り23メートル歩く。すると、画面にあった案内看板と全く同じデザインのものが確かにあった。


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 このようにアプリは曲がるポイントごとに案内看板や階段など目印となるものが何なのかを表示してくれる。既存の地図アプリのように、迷わないよう地図画面で現在地の印を追い続ける必要がないのだ。

 こうして曲がり角に来たときだけスマホ画面を見て指示に従うということを5回繰り返すと、無事目的地のグランスタダイニングに到着することができた。

■駅構内の看板・天井に160個の発信器


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印鑑の朱肉ケースのような電波発信機。直径5センチ、重さ50グラムと小さい

 どのような仕組みで案内しているのだろうか。JR東日本は今回、東京駅にある様々な案内看板や天井などに直径5センチメートル、重さ50グラムほどの小さな電波発信器を約160個設置した。スマホに搭載されている短距離無線通信「ブルートゥース」を利用し、発信器の半径5メートル以内に入ったスマホが電波を受信することで、現在地を把握する。現在は米アップルのiPhoneのみに対応している。

 通常のスマホが内蔵している全地球測位システム(GPS)を使う手もあったが、屋内や地下で位置を探知することは技術的に難しいことから、複数の発信器を設置する方法を採用することにした。

 10月には愛知県で歩きながらスマホを見ていた中学生が、線路に転落する事故があった。こうした事故を防ごうと最も注意したのは「歩きスマホ」の防止だ。アプリを立ち上げるたびに必ず、歩きスマホをしないよう注意する文言を表示する。またホームからの転落を防止する観点から、ホームでは道案内しない設計になっている。

■気になる点も


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今回のプロジェクトを率いたJR東日本研究開発センターの中村真純上席研究員。「『歩きスマホ』をいかにさせないようにするかに気を配った」という

 体験してみた感想だが、地図アプリとしては、まずまず使えると思う。まもなく一年でも混み合う年末年始を迎える。iPhoneの「アップストア」からダウンロードできるので、東京駅に不案内な人は、試してみてもいいかもしれない。

 もちろん、まだ実証実験段階ということもあり、気になる点もある。正確な現在地を表示するには、アプリを立ち上げてから少し時間がかかる。また目的地を設定する際、「グランスタ」「エキュート」など商業施設名では可能だが、「○○弁当店」「○○レストラン」といったように個別の店舗ではできない。乗客が知りたい情報をダイレクトに検索、提供できるよう改善できるかがアプリの利用者を増やすカギになりそうだ。

 今後は駅ナカの店舗のお得情報を地図上で表示できるようにするなど、販売促進にも役立てたい考えだ。実証実験は2月まで実施。利用者の声や運用の状況を参考にして、東京駅だけでなく「新宿駅や横浜駅など大規模な駅を中心に導入したい」(中村真純上席研究員)という。

 JR東日本が直接手掛けるアプリはこれだけではない。3月には山手線の号車ごとに混雑状況や車内温度をリアルタイムに閲覧できる「JR東日本アプリ」の提供を始めた。交通アプリはたくさんあるが、同アプリは交通事業者でないとできないきめ細かな情報提供が話題を呼んだ。「東京駅構内ナビ」も安全を守りながら道案内できるユニークなアプリといえる。

 東京駅は1914年、新橋駅と上野駅に代わる新たな中央停車場として誕生した。開業当時は4面しかなかったホームも、今や地下も含めて14面に増え、ますます駅構内は複雑になっている。来年3月にはこれまで上野始発だった宇都宮線や常磐線などが東海道線と直通運転する「上野東京ライン」が開業。東京駅と羽田空港間を最短18分で結ぶ「羽田空港アクセス線」構想もあり、東京駅を利用する人はこれからも増える見通し。こうした道案内をしてくれるアプリが果たす役割はますます大きくなりそうだ。(電子整理部 鈴木洋介)