【ザッツエンターテインメント 】 冬は酒場、冬こそ居酒屋編 (日刊ゲンダイ) (楽天ブックス)
ザッツエンターテインメント
冬は酒場、冬こそ居酒屋編
日刊ゲンダイ2014年12月7日
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/155547
ぷらりと出かけたくなる/(C)日刊ゲンダイ
やっぱり酒場は、寒い冬の熱燗が似合うのではないだろうか。どんな種類のアルコールだろうと、おいしくて楽しい時間をすごせるのが、酒場や居酒屋のいいところ。北風がピューッと吹いて、あったかい店が恋しくなる、そんな季節にピッタリの本を紹介する。
「酒場のたわごと」なぎら健壱著(実業之日本社 1296円税込)
なぎら健壱著「酒場のたわごと」を読むと、まるで飲み屋のカウンターかテーブル席にいる気分になれる。
ぐいぐい“読める”エッセーは、サブタイトルどおり「酔って語ってつぶれて眠る……オヤジの寝言」をつづったもの。面白さは3つある。まずは、加齢や老いについて身につまされ、共感できる点。
なぎらさんは、ある時トートバッグからマスクを取り出そうとする。入れたはずなのに、ガサゴソ探しても見つからない。おかしいなあ、と頭をひねったあげく、愕然とする。マスクをしている自分に気づくのだ。
若い芸能人の顔が分からないのはもちろん、年をとると謎の夢を見るようになる。師匠とあがめるフォークシンガー、故・高田渡さんが出てくる夢は実に不可解だ(なぎらさんがフォークシンガーだと知らない世代も増えてるが……)。
なぜか夢の中の渡氏はスッポンポンであおむけに寝ている。傍らに寄り添う友人のGさんが、おもむろに渡氏の股間をまさぐり、なんといとおしそうに如意棒を口に含む。すると渡氏、うめき声をあげ「ああ~、生き返りそう」と言う。なぎらさんは「あれれ、生き返るのかい?」と思い「頑張れGさん、フレーフレー」とエールを送る。こんな夢を見るなんて「脳が壊れてきている証拠なのかね?」。
面白さの2つ目は、ウンチク。如意棒の流れでいえば、ハ・メ・マラ。年とともに衰える身体機能、つまり歯、目、魔羅のこと。
<魔羅は仏教用語で、修行をしている人の心を惑わし、妨害しようとする物。またはそうしようとした魔王の名前ってことらしいんですな。つまり、それが転じた隠語。やっぱ魔羅ってのは人の心を惑わすんですな>
ってな具合で、常連客のウンチク話を聞いてる気分。「チューハイおかわりね」ってな感じになってくる。
でもって3つ目は名言と面白エピソード。たとえば、「オヤジ連中よ、年に合わせるなよ。年に合わせれば年を食うってことを忘れるなよ。何も、こっちから老いに握手することはないんだから!」。
たとえば、「博才がある人間とは、引き際を見極めることができる人間のことである」――。
ネットオークションやパワーストーン、宗教団体やらコンサートをめぐる笑えるエピソードも満載。酒場の楽しさは、酔っぱらいの会話にあるのだ。
■「神馬」上野敏彦著(新宿書房 2592円税込)
京都・西陣にある酒場、神馬は「しんめ」と読む。創業80年、京都1200年の歴史からは短いともいえるが、3代にわたる居酒屋の歴史は、それだけで人間ドラマだ。
酒谷禎一と妻・とみが1934年に開業。京都・西陣が空襲に遭って閉店。営業を再開するが、食糧不足で履物屋に衣替え。居酒屋としての再開は戦後8年目だった。61年には店内に太鼓橋を造る大改造。息子芳男、孫直孝が店を継ぐ。かつては映画館が林立した千本界隈の魅力を伝えながら、白壁が美しい神馬が愛される理由を、記録作家の著者が解き明かす。
■「居酒屋『西尾さん』のぬくもり酒」西尾尚著(光文社 1728円税込)
こちらは、店を構えた店主自らが書いた実践的な居酒屋論。人通りの少ない路地裏の地下、客が入りにくい欠点になるところを、逆転の発想で生かしていく。
バイトは雇わず省力化、お通しはあるなしを選べ、しかもセルフサービスのサラダ。オーダーは紙に書いてもらう。刺し身は多品種そろえるより、鎌倉・腰越の生シラス一本で勝負。夏にも食する静岡おでんもセルフでとる。こうした創意工夫の積み重ねで、古びた小さなお店に予約が殺到するようになった。居心地のいい空間はどう作られるのか、目からウロコだ。
■「居酒屋を極める」太田和彦著(新潮社 756円税)
30年にわたり全国の店を探訪した居酒屋評論家の著者は、「神馬」のオビにも「京都の市井にある居酒屋の世界遺産的存在です」というメッセージを寄せている。いい店の見分け方や粋な注文法を伝授する。
居酒屋は、古くて小さい店がいい。あこぎな商売や感じの悪い店は長く続かないからだ。暖簾をくぐったらどこに座るか。初めてのひとり客は玄関近くやトイレ脇、階段下などの末席がお勧め。緊張せず自分のペースで飲めるからだ。
そして注文は……というわけで、読んだら即、居酒屋に行きたくなること間違いなし。
冬は酒場、冬こそ居酒屋編
日刊ゲンダイ2014年12月7日
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/155547
ぷらりと出かけたくなる/(C)日刊ゲンダイ
やっぱり酒場は、寒い冬の熱燗が似合うのではないだろうか。どんな種類のアルコールだろうと、おいしくて楽しい時間をすごせるのが、酒場や居酒屋のいいところ。北風がピューッと吹いて、あったかい店が恋しくなる、そんな季節にピッタリの本を紹介する。
「酒場のたわごと」なぎら健壱著(実業之日本社 1296円税込)
なぎら健壱著「酒場のたわごと」を読むと、まるで飲み屋のカウンターかテーブル席にいる気分になれる。
ぐいぐい“読める”エッセーは、サブタイトルどおり「酔って語ってつぶれて眠る……オヤジの寝言」をつづったもの。面白さは3つある。まずは、加齢や老いについて身につまされ、共感できる点。
なぎらさんは、ある時トートバッグからマスクを取り出そうとする。入れたはずなのに、ガサゴソ探しても見つからない。おかしいなあ、と頭をひねったあげく、愕然とする。マスクをしている自分に気づくのだ。
若い芸能人の顔が分からないのはもちろん、年をとると謎の夢を見るようになる。師匠とあがめるフォークシンガー、故・高田渡さんが出てくる夢は実に不可解だ(なぎらさんがフォークシンガーだと知らない世代も増えてるが……)。
なぜか夢の中の渡氏はスッポンポンであおむけに寝ている。傍らに寄り添う友人のGさんが、おもむろに渡氏の股間をまさぐり、なんといとおしそうに如意棒を口に含む。すると渡氏、うめき声をあげ「ああ~、生き返りそう」と言う。なぎらさんは「あれれ、生き返るのかい?」と思い「頑張れGさん、フレーフレー」とエールを送る。こんな夢を見るなんて「脳が壊れてきている証拠なのかね?」。
面白さの2つ目は、ウンチク。如意棒の流れでいえば、ハ・メ・マラ。年とともに衰える身体機能、つまり歯、目、魔羅のこと。
<魔羅は仏教用語で、修行をしている人の心を惑わし、妨害しようとする物。またはそうしようとした魔王の名前ってことらしいんですな。つまり、それが転じた隠語。やっぱ魔羅ってのは人の心を惑わすんですな>
ってな具合で、常連客のウンチク話を聞いてる気分。「チューハイおかわりね」ってな感じになってくる。
でもって3つ目は名言と面白エピソード。たとえば、「オヤジ連中よ、年に合わせるなよ。年に合わせれば年を食うってことを忘れるなよ。何も、こっちから老いに握手することはないんだから!」。
たとえば、「博才がある人間とは、引き際を見極めることができる人間のことである」――。
ネットオークションやパワーストーン、宗教団体やらコンサートをめぐる笑えるエピソードも満載。酒場の楽しさは、酔っぱらいの会話にあるのだ。
■「神馬」上野敏彦著(新宿書房 2592円税込)
京都・西陣にある酒場、神馬は「しんめ」と読む。創業80年、京都1200年の歴史からは短いともいえるが、3代にわたる居酒屋の歴史は、それだけで人間ドラマだ。
酒谷禎一と妻・とみが1934年に開業。京都・西陣が空襲に遭って閉店。営業を再開するが、食糧不足で履物屋に衣替え。居酒屋としての再開は戦後8年目だった。61年には店内に太鼓橋を造る大改造。息子芳男、孫直孝が店を継ぐ。かつては映画館が林立した千本界隈の魅力を伝えながら、白壁が美しい神馬が愛される理由を、記録作家の著者が解き明かす。
■「居酒屋『西尾さん』のぬくもり酒」西尾尚著(光文社 1728円税込)
こちらは、店を構えた店主自らが書いた実践的な居酒屋論。人通りの少ない路地裏の地下、客が入りにくい欠点になるところを、逆転の発想で生かしていく。
バイトは雇わず省力化、お通しはあるなしを選べ、しかもセルフサービスのサラダ。オーダーは紙に書いてもらう。刺し身は多品種そろえるより、鎌倉・腰越の生シラス一本で勝負。夏にも食する静岡おでんもセルフでとる。こうした創意工夫の積み重ねで、古びた小さなお店に予約が殺到するようになった。居心地のいい空間はどう作られるのか、目からウロコだ。
■「居酒屋を極める」太田和彦著(新潮社 756円税)
30年にわたり全国の店を探訪した居酒屋評論家の著者は、「神馬」のオビにも「京都の市井にある居酒屋の世界遺産的存在です」というメッセージを寄せている。いい店の見分け方や粋な注文法を伝授する。
居酒屋は、古くて小さい店がいい。あこぎな商売や感じの悪い店は長く続かないからだ。暖簾をくぐったらどこに座るか。初めてのひとり客は玄関近くやトイレ脇、階段下などの末席がお勧め。緊張せず自分のペースで飲めるからだ。
そして注文は……というわけで、読んだら即、居酒屋に行きたくなること間違いなし。