【吉田類 大衆酒場100選】 ちゃんこ番として磨いた確かな腕が織りなす絶品の数々で、夢の世界へ

【吉田類 大衆酒場100選】
ちゃんこ番として磨いた確かな腕が織りなす絶品の数々で、夢の世界へ
日刊ゲンダイ2014年1月9日 掲載

http://gendai.net/articles/view/syoku/147117


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(C)日刊ゲンダイ

■炭火焼 玉秩父 吉祥寺

 吉祥寺は駅北口を出て、線路沿いを西荻方面へそぞろ歩くと、左側に小さな飲み屋街がある。若者たちの喧騒から遠ざかり、こよいの河岸の暖簾をくぐって、引き戸を開ける。そして止まり木を探していると、カウンターの真ん中にドンと腰を据えた紳士から声がかかった。

「ここ座りなよ」

 おしぼりと瓶ビール(中)550円でひと息ついて、改めて隣の紳士にお礼して乾杯。と、顔を合わせ思わず二度見してしまった。ママへ目を向けると、笑いながら大きくうなずく。巨人V9時代の立役者のひとり、末次利光さんではないか。店に通い30年以上になる大の常連客だという。恰幅(かっぷく)のいい体で麦焼酎のお茶割りを飲み干す姿といい、何ともかっこいい。

 日替わりの総菜4種から選ぶお通し300円に、春菊のゴマ和えをお願いし、テレビで応援していた頃を思い出していると、末次さんは杯を交わせば同じ仲間じゃないかと、店のことをあれこれ教えてくれた。マスターの齊藤徹さんが元力士だったこと、店名はマスターの現役当時の四股名からとったこと、引退後に店を開き今年で40年を迎えたこと。炭火の煙が立ち込めるなか、ほかの席からの合いの手が入ったりして、和気あいあいとして、知らず知らずにくつろいでいた。いい酒場だなあ。

 岩手の地酒、浜娘の純米酒600円をグビリとやって、色とりどりの魚介などが並ぶカウンターのショーケースから、アスパラ600円を炭火焼きでお願いした。これがシャキッとした食感を残しつつ、ジューシーな甘味があふれ出てきて、思わずうなる。と、末次さんらが一斉にほほ笑み、「腕のいいマスターがまじめに作っているんですもの当然でしょ」とママが軽口を叩いた。うん、うんと店内の男たちが同調する。

 その通りであった。赤穂のカキ(2個)500円、シイタケ450円と、焼いてもらった肴は、どれも絶品なのだ。うまい酒に身も心も溶けていく。今年もすべての飲んべえに幸あれ!
(取材・カメラ 吉田慎治)

■ちゃんこ番の腕前

吉田類…「炭火焼きだけに目を奪われがちですが、ここは料理もしっかりとおいしいんですよ。茶碗蒸し700円やアジとイワシのすり身汁700円なんかは、飲んだ後の締めにもぴったり。これもマスターのちゃんこ番で磨いた腕と、巡業中に全国のうまいものを食べ歩いてきた舌があればこそなんでしょうね」

▼よしだ・るい 高知県出身。画家、イラストレーターの傍ら、酒場詩人として全国の酒場をめぐる。著書に「酒場歳時記」など。BS―TBS「吉田類の酒場放浪記」出演中。





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