【吉田類 大衆酒場100選】 懐は寂しくても、明日は見えなくても…乾杯! <酒蔵かっぱ(新橋)>

【吉田類 大衆酒場100選】
懐は寂しくても、明日は見えなくても…乾杯!
日刊ゲンダイ2013年12月26日 掲載

http://gendai.net/articles/view/syoku/146882


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(C)日刊ゲンダイ

<酒蔵かっぱ(新橋)>

 新橋は烏森口を飛び出すと、忘年会シーズン真っただ中の街はごった返していた。が、職場の仲間とパーッといこうというような華やぎというか、浮かれた顔は多くない。そういう時代なのだろう。

 新橋西口商店街を進み、2つ目の十字路を左に折れたところにあるのが、今宵(こよい)の河岸。7坪(23.14平方メートル)ほどの空間に厨房とコの字形のカウンター、4人掛けのテーブルが2席あるだけの小箱ながら、夜ごと飲んべえたちが詰めかけ、袖すり合うのも何かの縁とばかり、分け隔てなく語らうことで知られた店である。創業から35年、どれだけのサラリーマンがここで、つらい仕事の憂さを晴らしてきたのだろう。

 暖簾をくぐり、ちょっと驚いた。午後6時を回ろうとしているのに、先客はゼロ。店主葛山健一さんの頭に巻いたねじり鉢巻きがどうにも寂しげで、何と言っていいのか分からず、お互い苦笑い。まあ、こんな日もありますよ、との言葉をのみ込んで、止まり木についた。

 まずは生ビール(日本酒、サワーでも可)に刺し身2点盛りが付く「かっぱセット」850円を注文する。キンキンに冷えたジョッキとともに、マグロと大根の煮物のお通し280円が出てきた。

 こちらの売りは、魚料理。壁にズラリと魚介メニューが並んでいる。ビールで喉を鳴らし、プッハーとひと息。この瞬間がたまらないのだ。マグロ大根に箸をつける。大根に魚のうま味が染みていて、しみじみとなる。マグロとアジの刺し身2点盛りも、しかり。キラキラ輝き、鮮度がいいと主張しているみたいだ。店主に聞けば、魚は2代目となる息子さんが毎朝築地へ通い、じかに仕入れてくるそうだ。

 ジョッキを2杯空けたところで、酒を灘の地酒、徳若650円に差し替えた。ついでにオススメをお願いすれば、生け締め肝付きカワハギ850円を出してくれた。肝を溶かした醤油を絡めて、口へ放り込むと、濃厚なうま味が口いっぱいに広がる。辛口の酒で洗い流すと、口元が緩んでいく。

「この時季は肝に脂が乗っているからね」

 と、ほほ笑む店主。さすが、分かってらっしゃる。気持ちよくまどろんでいると、ここで本日2人目のお客が入ってきた。30代前半とおぼしきサラリーマン。その表情から、世知辛い世間にまみれ、苦闘している様子が伝わってくる。やはりジョッキをあおり、人心地つくのを見るともなしに見ていた。パーッとやれるほど、余裕も集まりもないけど、やっぱり酒はいいね。とくりに小さくお辞儀をした。
(取材・カメラ 吉田慎治)

■こだわりのカウンター

吉田類…「新橋もここ何年かで、こうしたコの字カウンターの店がめっきり少なくなりましてね。少し前までこの店もカウンターだけだったんですが、テーブル席が2つできた。これも時代の流れなんでしょうかね。ちょっと寂しい気もしますが、今もちゃんとカウンターをメーンにしているところに、店主のこだわりが感じられます」

▼よしだ・るい 高知県出身。画家、イラストレーターの傍ら、酒場詩人として全国の酒場をめぐる。著書に「酒場歳時記」など。BS―TBS「吉田類の酒場放浪記」出演中。





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