【吉田類 大衆酒場100選】 歴史と酒と女将と共に… 秋の夜長に酔いしれて  津国屋 三田

【吉田類 大衆酒場100選】
歴史と酒と女将と共に… 秋の夜長に酔いしれて
日刊ゲンダイ2013年10月10日 掲載

http://gendai.net/articles/view/syoku/145165

<津国屋 三田>


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 都営三田線の三田駅を出て、慶応大の学生に交じってキャンパス方面へ。彼らは正門をくぐり、飲んべえは左側の路地へと向かうと、時代劇から抜け出したような、築120年の建造物がお目見えする。家紋入りの瓦屋根に、緑青が吹き出た銅板の壁。明治元年創業の津国屋は玄関付近がライトアップされて、美しい。

 もちろん、店内もだ。高い天井に、落ち着いた黒のカウンター、テーブル席。夕方6時30分を過ぎ、空席があるか心配だったが、雨がしとしとと降り続くせいか、不景気からか、カウンターに止まり木を確保できた。おしぼりを手に女将の伊藤京子さんが首をかしげる。
「おかげさまで、いつもこの時分にはカウンターもいっぱいなんですけどね」

 今宵は例外。年に何度か、こんな日があるという。「運がいいんですよ」とほほ笑んでくれた。

 元酒屋とあって、うまそうな日本酒がずらりと並んでいる。北陸を中心とした有名どころが約20種。そのほとんどが1合500円台なのだから、うれしくなる。今宵の1杯目から酒といきましょう。

 淡いブルーのガラス徳利で運ばれてきたのは、富山の銘酒、銀盤の純米大吟醸520円。グラスのおちょこに顔を近づけると、品の良い、フルーティーな香りが鼻をくすぐった。ツツーッと飲(や)れば、じんわりとした酔いが五臓六腑に染みていく。よどみない米のうまさというのか、実に飲み口がイイ。

 肴はどうか。なす漬物330円に自家製ミョウガ酢漬け480円と、壁の品揃えを目で追っていくと、レバーパテ650円、ポークステーキ840円といったものも少なくない。おかみに聞けば、6代目の伊藤浩之さんは洋食出身で、その腕を厨房で振るっているというのだ。なるほどと、おすすめを聞いて、自家製メンチカツ610円、さらに今が旬という〆(しめ)さんま590円をお願いした。

 うなったのが、さんまだ。焼きのほか、刺し身もうまいが、酢でしめたのも絶品ではないか! 脂がしっかりと乗っているから、酢に負けないどころか、さらに引き立っている。

 銀盤を合わせたところ、思わず目を閉じ、「くぅ~っ」と、恍惚(こうこつ)の声をあげてしまった。自家製メンチカツには、菊姫の純米800円を合わせた。春にできた新酒を蔵元で寝かせ、ひと夏かけて熟成させた「ひやおろし」というもので、今の季節から冬にかけて出回るのだ。なめただけで、ふくよかな、どっしりとした、芳醇な酒と分かる。嗚呼(ああ)、日本でよかったあ、と思える瞬間だ。たまには、腰を据えて飲みますか。秋の夜は長い。

<酒飲みの心を百も承知>

吉田類…「こちらは角打ちから始まっていますから、酒の安さはそこからきているのでしょうね。6代目が作る洋食は一見、奇をてらっているようで、ちゃんと地に足がついているといいますか、酒飲みの心が分かってらっしゃる。日本酒との相性もしっかり計算ずくですので、ぜひご賞味を!」

▼よしだ・るい 高知県出身。画家、イラストレーターの傍ら、酒場詩人として全国の酒場をめぐる。著書に「酒場歳時記」など。BS―TBS「吉田類の酒場放浪記」出演中。


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