『海に生きる 海人の民族学』秋道智彌著(東京大学出版会・2940円)

【書評】
『海に生きる 海人の民族学』秋道智彌著(東京大学出版会・2940円)
東京新聞2013年9月8日

http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013090802000163.html


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◆里海めぐる人知の可能性

[評者]川島秀一=東北大教授

 著者は長年、海洋民族学や生態人類学の立場から内外の海の調査研究を続けてきた。本書は東日本大震災後初めての、海とそこに生きる海人(かいじん)について書かれた注目すべき本だ。

 随所に最新の自然科学的な知見が展開され、しかも叙述は実に理解しやすい。海にかかわる研究は総合性が必要で、特に津波や原発事故後の海の復興を考える場合、自然科学と社会科学の総合性は欠かせない。しかし、著者は「われわれは科学が万能ではないことを今回の津波から学んだ」と述べ、「自然科学と社会科学の示す数字の虚構性を追及することこそが重要」であるともうったえる。

 海の資源保持や復興で第一に考えておかなければならないことは、「森・海・里の連環」につながる自然の循環を著しく阻害しないことであるという。例えば近世の宮城県気仙沼では、湾の奥に塩田が開けていた。湾に流れ込む大川は真水を運び、良い塩ができないことから、お塩師たちが訴えて、河口の向きを現在の位置に変えた。当時の生業においては川は敵であったわけだが、森と川と海の関わりについて人々は「民俗知」として会得していた。

 津波後の海の復興は、現在のように自然科学の衣装をまとった、なかばイデオロギー化された運動としてではなく、生活に深く根ざしたものとしてどのように提示していくことができるかが、確かに今後の課題である。

 「里海」に関わる人知も海に対してどこまで可能であろうか。高知県では「黒潮牧場」というパヤオ(浮き魚礁(ぎょしょう))を作ることで確実にカツオなどの漁獲を得ることができたが、そのために高知湾でカツオの群れが減少し、大型のカツオ一本釣り漁船はこの漁場から離れている。また、三陸沿岸は僻村(へきそん)ではなく、近世にはナマコとアワビの二品(ふかヒレは近代)を交易する開かれた地域であったと述べている。このような歴史や文化を無視しても復興はあり得ないだろう。

 あきみち・ともや 1946年生まれ。海洋民族学者。著書『コモンズの地球史』。



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秋道 智彌

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