【吉田類 大衆酒場100選】 豪快に素揚げした「若鳥唐揚」とビールで夢心地に…

【吉田類 大衆酒場100選】
豪快に素揚げした「若鳥唐揚」とビールで夢心地に…

【食・レジャー】
日刊ゲンダイ2013年8月1日 掲載



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<鳥房 立石>

 大衆酒場の聖地、立石は京成線の駅改札を出て、左側の階段を駆け下りる。夕日を背に並んで歩くランドセルの子どもがいて、遠くで豆腐屋のラッパが聞こえてくるような郷愁の商店街を行けば、どこからともなく香ばしい匂いが鼻をつく。

 創業60年の精肉店で、「若鳥唐揚」が名物の大東商店である。空揚げといっても、衣はない。日齢30~35日の若鶏(中びな)の半身に下味をつけ、そのままジューッと素揚げした豪快な一品である。頭とモミジ(足先)を落としただけだから、モモ肉も手羽もムネ肉も引っ付いたまんま。揚げたてをガブリとやって、冷たいビールを飲み干す心地といったら……。そんな飲んべえの夢をかなえてくれるのが、併設の「鳥房」。夢酒場である。

 店には橙色の裸電球が揺れ、土間にカウンター6席と小上がりがある。止まり木をみつけて、メニューをみれば、鳥わさ530円、ぽんずさし530円、鳥ぬた530円と、鳥尽くしだ。そして目当ての空揚げは、「時価」。値段は鳥の大きさによって決まり、小さいものが550円前後。30~40グラム増量するにつれ、580円、600円、630円と上がっていく。毎日3~5種類の大きさがあるという。

 この日は、おばちゃん店員のおすすめで、580円の空揚げをオーダーした。お通し(鶏皮の煮込み)50円と鳥南蛮漬け280円をアテに、瓶ビール560円をチビチビ飲(や)りながら、待つこと約15分。こんがりとキツネ色の肉が白皿にのって、運ばれてきた。待ってましたよ、一日千秋の思いで!

 ガッシとつかみ、大口をあけたその時だ。おばちゃん店員から、まさかの待ったがかかったのだ。
「はじめてだろう。バラしてあげるから」

 と、割り箸と半紙をつかい、きれいに、切り分けてくれた。マグロの解体ショーの、空揚げ版といったところか。あっという間にモモはモモ、手羽は手羽、むね肉はむね肉で集められている。これはいいネ! 一瞬ムッとしたのを、心の中でおばちゃん、否、おねえさん店員にわびて、箸を伸ばした。そして、モモを大量につまんで、口の中へ。
「………………」

 カリッとした皮の食感がきて、噛み締めるとジュワーッと、肉汁が染み出てくる。若鳥だけに、もちろん軟らかい。シンプルに、塩を振っただけという味付けが、素材のうまさを存分に引き出している。とか何とかいっても、言葉が足りない。届かない。嗚呼(ああ)。
「兄ちゃん、うめえか」

 口のまわりをベトベトにした常連客に言われたとき、「はい!」と考えるより早く、うなずいていた。うまいものは、うまい。それでいいのだ!
(文・カメラ 吉田慎治)

<おいしい裏技もアリ>

▽吉田類…「土日ともなれば、軒先に長蛇の行列ができるんですよね。でも取材というと、断られることが多い。常連さんに迷惑がかかると、気を使っているんですよ。客とすれば、うれしいじゃないですか。若鳥唐揚はそのままでも十分ですけど、ぽんずさしを頼んで、余ったタレにつけるのも、イケる。そういう裏技的な楽しみ方も、また下町らしいじゃないですか」

▼よしだ・るい 高知県出身。画家、イラストレーターの傍ら、酒場詩人として全国の酒場をめぐる。著書に「酒場歳時記」など。BS―TBS「吉田類の酒場放浪記」出演中。





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