【吉田類 大衆酒場100選】 全品320円ながら味は割烹並み、秘密を探ると… <しげきん 新小岩>
【吉田類 大衆酒場100選】
全品320円ながら味は割烹並み、秘密を探ると…
【食・レジャー】
日刊ゲンダイ2013年6月20日 掲載
http://gendai.net/articles/view/syoku/143026
<しげきん 新小岩>
新小岩駅は南口を出て、一番通りの1本目の路地を左へ曲がると、「立呑割烹」との看板が目に入る。「料理全品320円」とある。上質な料理を大衆酒場で振る舞おうというのだ。
暖簾をくぐり、ちょいと驚いた。右手にテーブル、真正面にカウンター、奥には小上がりがあり、お膳が4つも並んでいる。とても立ち飲み屋とは思えない広さだ。まずはカウンターで生ビール320円を注文。常連さんとグラスを合わせ、人気の「おまかせ刺し身3点盛り」を頼めば、サーモンとタコが数切れときれいな赤エビが運ばれてきた。鮮度はいうまでもなく、大ぶりの赤エビは頭のミソまでちゅーっと吸い出してしまう。にんまりしていると、「そりゃそうですよ。ちゃんと築地から仕入れているんだから」と常連さん。聞けば、ここはもともと生粋の割烹料理店だったという。店主の伊藤茂雄さんは江戸川区で寿司割烹を営んでいたが、「駅前で勝負したい」と一念発起し、新小岩へ移転。立ち飲みとなったのは、それから5年後。ご本人が当時を振り返る。
「駅前にチェーン店がどんどん増えてって、価格競争に太刀打ちできなくなりましてね。食っていくためにとにかく必死だったんですよ」
人生、いつ好転するかわからない。苦肉の策ではじめた立ち飲みだったが、毎日でも通える気軽さと、割烹320円均一という手軽さが受け、今では新小岩を代表する人気店である。
ま、安い店ならいくらでもある。人気の秘密は、やっぱり質と品揃え。壁に並んだメニューは、ザッと40種類は下らない。
「刺し身から揚げ物、蒸し物、煮物、寄せ物まで、時間があれば何でもやろうと思いまして」
と店主がいうように、多い日には60種類くらい出すという。すべて、厨房での手作りというからえらい。うまいもの談議に耳を傾けつつ、「だし巻きたまご」をつまむ。ダシの風味をきかせた、割烹の味である。ジョッキを空け、清酒220円へと差し替える。そして「高野豆腐やさいあん」を口に運べば、やや濃いめの味付けながら、これまたカツオのダシが高野豆腐に染み渡っているじゃないか。もちろん、あんまで飲み干した。
「料理はその人の感性に訴えるものですからね。だからこそ難しい。でも、お皿がきれいになって戻ってくると、うれしいんですよ」
いやいやご主人、安くてうまい肴をどうもありがとう。客が皿をきれいにするのは、再訪の誓いですよ。
(文・カメラ 吉田 慎治)
<立ち飲みブームの成功例>
▽吉田類…「新小岩といえば立ち飲みの激戦区なんですね。ちょっと前の立ち飲みブームの際、店の形態を立ち飲みにする店がたくさんありましたけど、こちらは最も成功した店かもしれません。元割烹店の店主が作る料理が、どれも320円で楽しめるのだから、当然かも。こんな優良店はそうありませんから」
▼よしだ・るい 高知県出身。画家、イラストレーターの傍ら、酒場詩人として全国の酒場をめぐる。著書に「酒場歳時記」など。BS―TBS「吉田類の酒場放浪記」出演中。
全品320円ながら味は割烹並み、秘密を探ると…
【食・レジャー】
日刊ゲンダイ2013年6月20日 掲載
http://gendai.net/articles/view/syoku/143026
<しげきん 新小岩>
新小岩駅は南口を出て、一番通りの1本目の路地を左へ曲がると、「立呑割烹」との看板が目に入る。「料理全品320円」とある。上質な料理を大衆酒場で振る舞おうというのだ。
暖簾をくぐり、ちょいと驚いた。右手にテーブル、真正面にカウンター、奥には小上がりがあり、お膳が4つも並んでいる。とても立ち飲み屋とは思えない広さだ。まずはカウンターで生ビール320円を注文。常連さんとグラスを合わせ、人気の「おまかせ刺し身3点盛り」を頼めば、サーモンとタコが数切れときれいな赤エビが運ばれてきた。鮮度はいうまでもなく、大ぶりの赤エビは頭のミソまでちゅーっと吸い出してしまう。にんまりしていると、「そりゃそうですよ。ちゃんと築地から仕入れているんだから」と常連さん。聞けば、ここはもともと生粋の割烹料理店だったという。店主の伊藤茂雄さんは江戸川区で寿司割烹を営んでいたが、「駅前で勝負したい」と一念発起し、新小岩へ移転。立ち飲みとなったのは、それから5年後。ご本人が当時を振り返る。
「駅前にチェーン店がどんどん増えてって、価格競争に太刀打ちできなくなりましてね。食っていくためにとにかく必死だったんですよ」
人生、いつ好転するかわからない。苦肉の策ではじめた立ち飲みだったが、毎日でも通える気軽さと、割烹320円均一という手軽さが受け、今では新小岩を代表する人気店である。
ま、安い店ならいくらでもある。人気の秘密は、やっぱり質と品揃え。壁に並んだメニューは、ザッと40種類は下らない。
「刺し身から揚げ物、蒸し物、煮物、寄せ物まで、時間があれば何でもやろうと思いまして」
と店主がいうように、多い日には60種類くらい出すという。すべて、厨房での手作りというからえらい。うまいもの談議に耳を傾けつつ、「だし巻きたまご」をつまむ。ダシの風味をきかせた、割烹の味である。ジョッキを空け、清酒220円へと差し替える。そして「高野豆腐やさいあん」を口に運べば、やや濃いめの味付けながら、これまたカツオのダシが高野豆腐に染み渡っているじゃないか。もちろん、あんまで飲み干した。
「料理はその人の感性に訴えるものですからね。だからこそ難しい。でも、お皿がきれいになって戻ってくると、うれしいんですよ」
いやいやご主人、安くてうまい肴をどうもありがとう。客が皿をきれいにするのは、再訪の誓いですよ。
(文・カメラ 吉田 慎治)
<立ち飲みブームの成功例>
▽吉田類…「新小岩といえば立ち飲みの激戦区なんですね。ちょっと前の立ち飲みブームの際、店の形態を立ち飲みにする店がたくさんありましたけど、こちらは最も成功した店かもしれません。元割烹店の店主が作る料理が、どれも320円で楽しめるのだから、当然かも。こんな優良店はそうありませんから」
▼よしだ・るい 高知県出身。画家、イラストレーターの傍ら、酒場詩人として全国の酒場をめぐる。著書に「酒場歳時記」など。BS―TBS「吉田類の酒場放浪記」出演中。









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