【とことんかわさき体験<3>】 釣り船船長見習 空を見、風を読み爆釣アジ

【神奈川】
とことんかわさき体験<3>釣り船船長見習 空を見、風を読み爆釣アジ
東京新聞2013年5月5日


http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/20130505/CK2013050502000132.html


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かじを握りながら探知機で釣り場を探す山本船長(奥)。記者も海原を眺めて魚群との遭遇を祈る=東京湾で


 川崎市川崎区池上町の桜堀運河に、さおとクーラーボックスを持った釣り客が集まってきた。遊漁船業「つり幸本家」(幸田一夫社長)の船着き場だ。

 「午後から南風が強くなりそう。少し釣りにくいかもしれない」。空を見、風を読む「第2さくら丸」船長、山本誠一さん(41)の顔が少し曇る。

 一七トン、定員四十二人のアジ釣り船。船長室は二畳ほどの広さで、前面にボタンやスイッチがびっしり。車のハンドルと同じくらいのかじを停泊中に握らせてもらうと、片手で回せるくらい滑らかなのに驚いた。

 製油所、物流倉庫、液化天然ガスのタンク。コンビナートの工場群を間近に眺める。十分ほどで東扇島を抜け東京湾へ出ると、船は一気に加速した。

 川崎港の近くは冬場はシーバス(スズキ)の漁場。シコイワシなどの小魚を追って、五〇センチ以上の大物が集まってくるという。五月から梅雨にかけてはシロギス。産卵で浅場に押し寄せるタイも狙える。夏はサバやイナダのシーズンだ。

 「ここは豊かな海。狭い湾に多摩川や荒川など大河が流れ込んでいるから、栄養が豊富なんだね」

 出港から一時間ほどして最初のポイントに到着。前日に成果があった地点で期待が高まる。駆け出した山本さんに付いて船尾に。スカンパーという帆を張る作業だ。

 風と並行に張り、船が横を向かないようにする。二本の太いロープを勢いを付けて引っ張ると、二・五メートル近い三角形の帆が立つ。腕に伝わる重さは、釣果に加えて人命も預かる重みに感じた。

 この日はアタリがない。群れは行ってしまったようだ。川釣りをやる記者は「ボウズ」(釣果なし)には慣れているが、船長にはそれが許されない。表情がまた曇る。船長室の空気が重くなり、記者も祈るような気持ちで海原を見詰める。

 無線で仲間と頻繁に交信する。過去に実績があったポイントを中心に、丹念に魚影を追う。三十分ほどして、横浜市金沢区の小柴沖に着いた。魚群探知機の画面に記者も目を凝らす。海底近くで複数の赤い点が点灯した。「群れだ」。かじを巧みに操り、船体を群れの真上に置いた。

 二〇~三〇センチのアジが面白いように釣れ、五十尾以上を釣り上げた客も。潮の動きが鈍いなど条件はよくなかったが、船長の意地の“かじ取り”で全員笑顔で帰港。約四時間、船酔いなく記者も晴れやかに船を下りた。

 釣りは自然が相手。刻々変化する天候や潮を総合し、最大の釣果が出る漁場にガイドする。経験が何よりモノを言う仕事とあらためて教えてもらった。

 十代後半には漁師をしていた山本さん。マグロ漁で遠洋に出たこともある。「たくさんの釣り舟と漁師が生計を立てている。これだけ多くの人を養ってくれる海は、世界を探してもほかにないのではないか」

 分けてもらったアジは、その晩に刺し身とフライで頂いた。東京湾の恵みを存分に味わった。(栗原淳)

 <メモ> 川崎市では戦後の最盛期に10軒前後の遊漁船業者がいた。しかし、臨海部の埋め立てが進んで船着き場が減ったことなどを背景に減り、現在は3軒のみになった。

 つり幸本家はアジ、シーバスのほか、ヤリイカやマダイ釣りの船を用意。GW期間中はメバル・カサゴ狙いの夜釣りも人気という。料金は6000円から。予約、問い合わせは、つり幸本家=電(266)3189=へ。

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